君を支配する全てから

 彼女を初めて見たとき、僕は恋と言うものを知った。
 ステージの上で舞う彼女の姿は、この世の何よりも綺麗で僕はいつまでも彼女を見届けたいと思った。
 でも、彼女には自由がなかった。それを知ったのは僕が思い切って彼女を映画に誘った時だった。
 映画館の場所は、村の隣町の大型ショッピングモール。近隣の住人なら誰もが訪れたことがあるその場所に、彼女は行ったことがなかった。
「私を、連れ出してくれる?」
 捕らわれたお姫様みたいだね。と僕が答えると、「似たようなものよ」と彼女は自嘲した。
「でも、貴方には無理よ。そして私には梓央莉がいる。映画なんて十六夜が止めるでしょうね」
 だけど、君はずっと村の支配の中で我慢してきた。きっと一日だけならこっそり抜け出せるんじゃないかな。
 僕が言うと、彼女は難しそうな顔をして頬に手を当てた。
「変装でも、する?」
 彼女は苦笑したけれど、僕には名案のように思えた。
 彼女はいつも決まって暗い紫色の洋服を身に纏っていた。腰まである長い髪も、帽子で隠してしまえば別人になるかもしれない。
「本当に、うまく行くかしら」
 やってみよう。と、僕が言うと彼女は「遥生にお願いしてみるわ」と答えた。
「梓央莉は……私に興味がないだろうから、一人になりたいと言えばそうするはず」
 見たい映画は、と僕が訪ねると、「どんな映画が観れるのか私は知らないわ」と返ってきた。
 それなら、と僕は、ファンタジー冒険ものを彼女に見せてあげることにしたのだった。
 暗幕の中の二時間。真っ暗な世界を体験すれば、彼女は彼女を支配する全てから自由になれると僕は期待した。
 これって、デートだよね。と僕が言うと、彼女は顔を真っ赤にした。
 そんな彼女の表情を見ただけで、僕は世界を敵にしてもいいかもしれないと思ってしまった。