お遊び:存在しない原作の二次創作:現パロ勇者×魔王(百合)

二人が『再会』を果たしたのは、もう二年も前の話になる。
当時中学一年生だった私は、放課後に学校の図書室で一人本を読んでいた。
すると突然、一人の女性が私に声をかけてきたのだ。
「ねえキミ、何読んでるの?」
それが美緒さんとの初めての出会いだった。「……えっと、恋愛小説です」
「へー! 意外とロマンチストなんだね!」
「いえ、そんなことないですよ。それにこの作者さんの書くお話はどれも素敵なんです」
そう言って私が手にしていた本を彼女に見せると、彼女は興味深げにそれを見たあと、「ちょっと借りてもいいかな?」と言ってきた。
特に断る理由もなかったし、そもそも彼女から話しかけてくれたことが嬉しかった私は二つ返事で了承した。
「ありがとう! じゃあ明日返すね!」
そう言うと、彼女はそのまま図書室から出て行った。
(綺麗な人だったなぁ……)
それが、私の抱いた第一印象だった。
そして次の日、宣言通り彼女がその本を持って現れた。
それからというもの、彼女とはその日から毎日のように会うようになった。
最初はお互いにぎこちなかったけれど、次第に私たちは仲良くなっていった。彼女の明るく人懐っこい性格がとても好きだった。
もちろんそれは恋愛感情ではなく、あくまでも友人としてだが。
だけどいつの間にか、私たちの関係は友達というには少し行き過ぎたものになっていた。
一緒に登下校するようになって、休日には二人で遊びに行くようにもなった。
当然、周りからは冷ややかな目で見られることもあったけど、それでも私は美緒と一緒にいることを選んだ。
きっと当時の私は浮かれていたんだと思う。自分が世界の中心にいるような気になって、周りの声なんてまるで聞こえていなかった。
――でも、それも長くは続かなかった。
ある日を境にして、私は美緒に会うことが出来なくなった。
メールや電話をしても、返ってくることはなかった。
結局、あれから一度も会わずじまいのまま現在に至る。
今にして思えば、あの時もっと真剣に考えるべきだったのかもしれない。
どうして急に連絡が取れなくなってしまったのか? その理由は何なのか?何故、こんなにも胸騒ぎがするのか?……しかしいくら考えたところで答えが出るはずもなく、私はただ悶々としながら日々を過ごしていくしかなかった。
そんなある日のこと、ふとした拍子にある噂を聞いた。
なんでも美緒さんが行方不明になったらしい。しかもここ最近ずっと連絡が取れないのだという
「ねぇ、美緒ってあなたの知り合いよね?」
教室でクラスメイトと話しをしていた時に、不意にそう聞かれた。
「うん。まあ一応……」
「ならいいんだけどさ。なんか最近変なことが起こってるみたいだから心配で……。もし何か知ってたら教えてほしいなって思って」
「変なこと?」
「うん。ほら、うちの学校って結構生徒多いじゃない? だから誰かがいなくなるとすぐ噂になるのよ。それで今回はどうも失踪事件が多発してるみたいなの」
「へぇーそうなんだ」
「だからあなたからも何か聞いてないかと思って」
「うーん……ごめんなさい。私は何も知らないわ」
「そっかぁ、残念だなぁ。美緒とも仲良かったし、あなたから聞けば色々分かると思ったんだけど」
「本当に何も分からないのよ。ねえそれより、美緒とはどこで知り合ったの?」
「ああ、それね。実は私もよく覚えていないのよ」
「えっ?……どういうこと?」
「ほら、この学校に転入してきたばかりの頃、クラスのみんなと自己紹介をして回ってたでしょ? その時たまたま隣の席にいたのが美緒だったの。それだけよ」
「そうだったんだ……」
「まあ、そんなことは今はどうでもいいの。それよりも、今日これから時間あるかしら? せっかくだしどこか遊びに行きましょうよ」
「……ごめんなさい。今日はこの後に予定があるの」
「あらそう。じゃあまた今度誘うことにするわ。じゃあね」
そう言って彼女は自分の席へと戻っていった。
(……やっぱり美緒さんのことを話せない)
美緒さんとの思い出は、私にとってかけがえのない大切なものだ。
だから他の誰にも話したくはなかったし、ましてやそのせいで他人を巻き込むわけにはいかない。
だけどその一方で、私は心の奥底では美緒さんの行方を知りたがっていた。
一体彼女はどこに行ってしまったのか? 何があったのか? 知りたい。
でもそれを訊ねる勇気はない。
もしも彼女に拒絶されたらと想像すると怖くて仕方がないからだ。
(……でも)
本当は分かっている。
いつまでもこのままでいる訳にはいかないということくらい。
だからもう覚悟を決めるしかないのだ。
(よし……!)
私は意を決して携帯を手に取ると、とある番号に電話をかけた。
「はい、こちら『株式会社 魔王』です」
「あ、あの、すみません。そちらに黒井美緒という方はいらっしゃいますか?」
「黒井美緒ですか? 少々お待ちください。……申し訳ありませんが、当店にそのような名前の者はおりませんが……」
「そう……ですか。ありがとうございます」
「いえいえ、またお困りの際はいつでもお電話をお待ちしております。それでは失礼いたします」
そう言って電話を切る。
(いない……)
これで既に五人目。
やはりそう簡単に見つかるはずもないようだ。
(でも、まだ諦めるつもりはない)
美緒さんを見つけ出して、ちゃんと話をするまで私は絶対に帰らない。
そう決意を新たにしたところで、ふいに目の前に人が立った気配がした。
「――こんにちは、お嬢さん。私と少しお茶でもしませんか?」
顔を上げると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
その容姿はとても整っていて、一目見ただけでその男性の持つ魅力が分かった。
「……誰?」
「これは申し遅れました。私はこういう者です」
そう言うと、彼は懐から名刺を取り出して私に差し出してきた。
その名刺には『株式会社 魔王』と書かれており、その下には彼のものと思われる名前が書かれていた。
「えっと……黒井……雅人さん?」
「はい、黒井雅人と申します。よろしくお願い致します」
「あ、ど、どうも……」
そう言って彼が差し出した手を握り返すと、彼はそのまま私の手を引いて歩き始めた。
「あ、ちょっと……」
「さあ、参りましょう」
有無を言わさぬ口調でそう言うと、彼――雅人はそのまま私を連れて喫茶店の中に入って行った。そして案内されたテーブルに着くなり、「何かご注文はありますか?」と言ってきたので、私は慌ててメニュー表に目を向けた。
「じゃ、じゃあコーヒーを一つ」
「承知しました。それではしばらくお待ち下さい」
そう言い残して去って行く彼の背中を見ながら、私は大きなため息を吐いた。
(なんなのよ……もう)
突然現れたと思えば、人の都合も聞かず強引に連れ出すなんてどうかしてる。
それに、あんなことをされて私が喜ぶと思っているのだろうか? だとしたらとんだ思い上がりだ。
そもそも美緒さんがいなくなったのだってきっとあいつのせいに違いない。
(そうだ。間違いない。美緒さんが失踪したのは絶対にあいつのせいなんだ……!)
私は確信する。あの男が美緒さんを探しているということはつまり、あの男こそが彼女を攫った張本人だということなのだから。
(絶対に許さないんだから!)
怒りに身を震わせながら待っていると、しばらくしてウェイトレスの女の子が現れ、コーヒーカップを机の上に二つ置いた。それから彼女は一礼するとその場を離れていき、その後すぐに先程の男がやって来た。
「お待たせしました。どうぞ召し上がってください」
雅人は向かい側の椅子に座ると、手に持っていたバッグからファイルのようなものを取りだし、その中の書類を一枚ずつ捲って確認し始めた。
(……)
何を考えているのか知らないけど、とりあえず今は相手の様子を見よう。変に動くのはそれからだ。
そう思って出されたコーヒーを一口飲もうとしたところで、ふいにあることに気が付いた。
(この匂い……まさか)
よく見ると、目の前に置かれているコーヒーにはミルクがたっぷりと入れられていた。
(やっぱり……!)
私はその事実を確認すると思わず笑いそうになり、それを必死に堪えて顔を背けた。
だけどそれは失敗だったかもしれない。何故なら、そうすることで相手に自分が緊張していることを伝えてしまったようなものだから。
(落ち着け……。大丈夫、大丈夫だから……)
心の中でそう自分に言い聞かせ、心を平静に保つように意識しながら呼吸を整えた。
(落ち着いて考えれば簡単なことだわ。美緒さんのことを考えるのはやめればいいんだもの)
私は自分の中の美緒さんに関する記憶を全て消し去り、ただの知り合い程度にしか感じていないということだけを強くイメージすることにした。
(よし……!)
ようやく落ち着きを取り戻してきた。
これならばうまくいくはずだ。
(さて……)
私は美緒さんのことを全て忘れたことを確認し終えてから改めて正面を見た。するとそこにはこちらの様子を伺うようにしてじっと見つめる彼女と目が合った。彼女は少し戸惑っているような表情を浮かべており、私はそんな彼女に向かって出来る限り穏やかな笑顔を作って見せた。
(――今こそ美緒さんとの約束を果たす時)
私は決意を固めると大きく深呼吸をした。
「ねえ……あなた、名前は何ていうの?」
「……小百合」
「そう。良い名前ね。それで……えっと、私に何か用かな?」
そう言うと彼女はどこか怯えたような様子を見せながらも小さくこくりと首を縦に振った。その態度はまるで小動物のように弱々しくて可愛らしくて庇護欲がそそられた。だからなのか分からないけれど、その時は何故か彼女がとても