斎灯森村物語

七夕さらさら

 七月に入り、斎灯森村では下旬に控えた村祭りの準備で賑わっていた。 木代理も例に漏れず、舞の練習のために第一会館を訪れる頻度が増していた。 ある日、目に触れたのはエントランスの奥に飾られている一本の笹だった。 笹の枝には長方形に形作られた色…

少女漫画読みたい

「好きだよ、かなめちゃん」 木代理さまが、愛の言葉を囁きながら私の名前を呼びました。 本当に愛おしそうに目尻を下げて言葉を紡ぐものですから、私はいつも勘違いしそうになります。 私の両手はトランプを握りしめたままですので、耳を塞ぐことはできま…

木代理カムバック(5)

 ずぶ濡れになりながら、私たちは会館にたどり着いた。 衣装が水を吸って気持ち悪い。地べたについてしまった長い裾は泥だらけだ。 私たちはできるだけ衣装を絞って水を捨て、茶色いスリッパを履いて会館の体育館へと集まった。 十六夜のおばあちゃんは体…

木代理カムバック(4)

 お昼になった。 私にはあと一日と半分しかなかった。 かなめちゃんは雛なしで神降ろしができる方法がないか、屋敷に戻って調べてくれている最中だった。 その間に私はかなめちゃんがビデオに残してくれた映像を見ながら舞の練習をしていた。「かーっ、う…

木代理カムバック(3)

 翌日の朝を迎えた。 やや筋肉痛の身体に鞭打って起きる。 私の朝食は特別に木代理さまの使っていた居間で食べられることになっていた。 かなめちゃんに案内されて、指定された部屋に向かう。「あ」 戸を開ければ、先代の雛だったというイケメンが先に座…

木代理カムバック(2)

 雛、巫女、獅子、狛犬、鬼。 その中の獅子はすぐに紹介できるとかなめちゃんは言った。 早速会いに行こうと屋敷を離れようとしたとき、渡り廊下の向こうに人影を見つけた。「木代理か?」 呼ばれて、かなめちゃんの後ろから顔を出す。 逆光で照らされて…

木代理カムバック(1)

 目が覚めると、私は木の根っこのくぼみにいた。 どうしてこんなところで寝ていたんだろう。自分でも不思議だった。 体を起こすと全身の節々が痛い。それに地面に接していた左の半身が雑草と土まみれだった。 右手で掃うと手のひらが汚れてしまったので、…

星じゃなくて太陽になりたいんだ

あたしがその気持ちに気づいた時には、もう手遅れな時期だった。それは突然降ってくるくせに、心を苦しいほどにかき乱す厄介なものなんだって身をもって知った。名詞は言わないよ。だって、認めたくないからさ。月に一度の『獣の呻き』だってそりゃ身体中に痛…

十六夜たるものとして

母はいつも同じものを ふたつ くれました。けれども申し訳なくて、使うのはいつも片方だけでした。ある日、私は身につけていた片方を失くしてしまいました。知った母は、それはひどく取り乱しました。日頃の母からは想像のつかない荒れ様でこれから始まるお…

しずると遥生のはじめまして

「あ」道行く途中で声を出した。理由は別にない。返事がないのを確認しただけ。なんにもない村の中では意味のない言葉の方が存在感を持つような気がした。それでも黙ってしまうと何事もなかったように退屈な時間が流れていく。言葉に意味なんてない。あぜ道に…

君を支配する全てから

 彼女を初めて見たとき、僕は恋と言うものを知った。 ステージの上で舞う彼女の姿は、この世の何よりも綺麗で僕はいつまでも彼女を見届けたいと思った。 でも、彼女には自由がなかった。それを知ったのは僕が思い切って彼女を映画に誘った時だった。 映画…

朱を慕う

 茉咲さんを見ると朱を連想するのは、彼女が情熱的な人物だからでしょうか。 彼女の特徴は、朱とは対照的な真っ白な髪を一つに束ねたポニーテールなのですが、風になびくその色は彼女自身の魅力を引き立てています。 茉咲さんの髪が真っ白な理由は、獅子の…